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第398号 1990(H2).11発行

Click here for PDF version 第398号 1990(H2).11発行

 

 

ササニシキ中苗育苗におけるロングの利用効果

宮城県農業センター 土壌肥料部
主任研究員兼作物栄養科長 武田 良和

Introduction

 健苗ほど移植後の不良環境条件に対する抵抗力が強く,安定性に優っているので,昔から「苗半作」と言われている。本県でも,健苗育成と適期田陣えとを,稲づくりの基本技術として指導の徹底を図っているところである。

 本県における健苗としての目安は,表-1に示すとおりである。さらに苗の栄養条件としては,窒素濃度が4%程度は確保されていることが,活着良化のためには必要と考えられる。

 一箱あたりの播種量は,乾籾で稚苗160g,中苗100g,施肥量は窒素・燐酸・加里成分量が,それぞれ稚苗2g,中苗1.5gを基準としている。

 追肥は葉色に注意して,稚苗では1.5葉期頃,中苗では1.5葉期及び2.5葉期の2回に,窒素成分で箱あたり1gを施用するよう指導している。

 中苗育苗では,育苗センターや規模の大きい個人の場合には,追肥の労力もかなりのものとなる。

 加えて本県では育苗期間の気象変動が大きく,苗の窒素濃度を4%以上に維持し,かつ徒長させない苗作りのためには,温度・水管理のほか,施肥の面でも細心の注意が必要である。

 この点,被覆肥料は肥効期間が長く,追肥による窒素供給量の調整も不要で,窒素養分の過不足も少ない等,本県の中苗育苗には適した利点があると考えられた。

 そこで,ロング(100日夕イプ)を利用することによって,中苗育苗期間の追肥を省略し,速効性肥料追肥の苗と同等以上の苗質を有する健苗の育成が可能ではないかと考え,試験を実施した。

 その結果,本県における中苗育苗に最も適したロング利用施肥法を確立できた。以下に,結果の概要を紹介する。

2. Testing Method

(1)育苗法

①供試品種 ササニシキ
②播種日  平成1年4月12日
③播種量  100g/箱(乾籾換算)
④床土   水田土(強粘質,3.3kg/箱)
⑤無加温出芽(パイプハウス,ベタ掛け)

(2) Composition of the test area

 表-2のとおり。1区3連制。

Results and Discussion

(1)苗の生育

 図-1に播種後35日(育苗終了時)の苗草丈の処理区間における相違を示した。横軸は表-2の試験区番号である(以下の各図共通)。

 区番号2が普通化成基肥に硫安2回を追肥した区であり,慣行育苗法に相当し,対照区とする。

 各区ともに,表-1に示した中苗の草丈目標値の範囲に入っている。しかし,4,11,12の各区はやや伸びすぎの傾向で,充実度(図-4)も低下したので、好ましくない。

 区番号3,5,8,11は速効性窒素1.0gで,ロング肥料の窒素がそれぞれ5,7,10,14gである。

 この場合,ロングの施用量が多いほど,草丈は伸長する傾向がみられ,ロングの窒素14gではその傾向が顕著であった。

 また,図-2に播種後経過日数と草丈の推移を示したが,ロング施用量が同一の場合,速効性肥料施用量の多いほうが草丈は伸長し,初期の生育の違いがその後の生育に影響を及ぼしたものと考えられる。しかし,ロング10g施用区では速効性肥料施用量による差は極めて小さかった。

 播種19,35日後と生育が進むに従って,対照区に比較して草丈は伸長する傾向が認められた。

 ロング窒素5,7gでは,速効性肥料窒素1.0gのときの草丈は対照区(2区)よりも短く,1.5gに増量するとやや伸びすぎる傾向となった。

 ロング窒素10g施用では草丈も対照区に優り,かつ徒長傾向もなく,速効性肥料施用量の影響も少なかった。

 苗地上部乾物重も,草丈と同様の傾向であったが(図-3),草丈の傾向に比較して,速効性肥料施用量の増加による乾物重増加は大きくない。

 このことは,速効性窒素施用量が増加すると,やや徒長傾向となったためと考えられる。この傾向は速効性肥料窒素1.5gに,ロング窒素14g施用した場合には顕著であった。

 乾物重を草丈で除した値,即ち単位長さ(1cm)当たりの重さを充実度といい,苗の形質を判断する指標としている。徒長することなく,ガッシリとして重い健苗ほど充実度が高く,中苗では1.5~2.0が目標値である。

 試験結果は図-4に示したが,ロング窒素の施用量が多いほど,上昇する傾向がある。しかし,ロング施用量が同一の場合は,速効性窒素の施用量が増加すると顕著に低下する傾向を示している。

 ロング窒素10g施用区では,この傾向は小さく速効性肥料窒素施用量の影響が比較的少ない結果となった。対照2回追肥区を基準としてみると,区番号5,8,10,11がほぼ同等か優る傾向であった。

 しかし,乾物重及び後述する苗の窒素濃度などを考慮すると8,11区の苗質が,より優っていると考えられる。

(2)苗の栄養状態

 育苗終了時の苗窒素濃度は4%を目標としているが,図-5に示したように対照施肥区(2区)及び速効性窒素1.5g+ロング窒素7g以上の区で,この値を超えていた。

 ロング10g施用区は速効性窒素の施用量の影響が小さく,3区ともに苗窒素濃度は4%以上となっているが,乾物重及び充実度の結果では,速効性窒素1.0g区が良い結果となっている。

 育苗終了時の地上部養分吸収量を表-3に示す。

 窒素吸収量は育苗中期以降はロング区が対照区より優り,育苗終了時ではロング窒素10g以上の区で対照区よりも優った。

 苗の燐酸,加里の濃度・吸収量でも,育苗終了時でロング施用区が対照区よりも優り,ロング施用量の多い方がやや高い傾向であった。ロング施用量間の関係は,窒素で最も明瞭であり,加里,燐酸の順で不明瞭となっていた。肥料成分の溶出特性を反映したものと考えられる。

(3)溶出割合

 床土内最高気温は播種後約10日間24℃以上の高温で経過したため,この間に50%程度の窒素成分の溶出がみられた。また,播種9日後から35日後までの溶出は,窒素で13%であり,燐酸,加里はこの間の溶出が極めて僅かであった。

(4)本田における生育及び収量

 6月中旬(8葉期頃)まではロング施用区の生育が優ったが,減数分裂期には差が見られなくなった。養分吸収量は,ロング窒素10g以上施用区では,各養分ともに対照区に比べて優り,収量もロング施用区がいずれも優った。

(5)まとめ

 ロングは肥効期間が長く,中苗育苗における追肥の省略が可能であるが,初期生育促進のため速効性肥料を上乗せして施用する必要がある。

 ロング窒素を7gとすると,慣行並の苗が得られるものの,苗窒素濃度がやや低い。田植時の苗窒素濃度目標値を4%を確保し,徒長させずに健苗を得るためには,ロング窒素10gの施用が適当と判断された。

 なお,育苗肥料の相違が生産費へ及ぼす影響を試算すると,追肥に本県でかなり使用されている液肥を施用した場合には,速効性肥料+2回追肥の施肥法でもロング施用と大差のない肥料代となったが,硫安追肥ではロングの方がコスト高であった。しかし,追肥の労力を労働費として計上すると,ロング施用によるコスト上昇分はほぼ減殺された。

 平成2年度は,速効性肥料を配合したロング肥料及び山土使用の場合も検討したが,特に問題はなく,このまま適用拡大が可能と判断された。

 ロングの利点は肥効が長期継続することであるが,このことは徒長させ易い欠点ともなるので,緑化終了以降の温度管理及び水管理には特に注意を促している。

 

 

水稲に対する緩効性被覆肥料(LP100,LP100s)を
利用した全量基肥施肥技術
その1 理想的窒素吸収パターンとシュミレーションについて

山形県農業試験場 化学部
主任専門研究員 上野 正夫

 農業の構造改革が進む中で,専業農家は,規模拡大と複合経営を模索しており,兼業農家は労力不足が顕在化し,米つくりに対する一層の省力化が求められている。また,圃場区画も拡大する傾向にあり,省力的な施肥技術への関心が高まりつつある。

 ところで,水稲が吸収する窒素は,大部分が土壌窒素と施肥窒素で占められる。したがって,土壌窒素の有効化パターンが明らかになり,さらに,施肥窒素の溶出パターンが把握でき,それぞれの利用率を考慮すれば,窒素吸収パターンのシュミレーションが可能になるはずである。

 そのため,ここでは,目標とする窒素吸収パターンを策定し,水田の窒素的地力と地力代替的な肥効を示す緩効性被覆肥料を活用した全量基肥一発施肥体系について述べてみる。

1.米作りの課題と緩効性被覆肥料によせる熱い期待

 最近の米作りの実態をみると,田植機が導入されて以来,植え付け精度や運行操作等に注意が払われ,耕起が浅くなり,穂数は確保されるが,思ったほど多収につながらないという,ある種のカベにつきあたっているように思える。ササニシキやコシヒカリ等良質品種の多収技術にとって,穂数が大きなウエートを占めることにかわりはない。

 しかし,穂数に偏重した考え方は問題がある。適正な穂数を確保し,一穂の充実度を高め,穂重感のある稲作りを目指す必要がある。つまり,水稲の生育は,初期は比較的順調に経過するが,出穂期を過ぎると間もなく栄養的凋落をきたし,登熟不良により減収する例が極めて多い。多収稲の条件である秋優り的生育は,生育後期まで持続する窒素栄養と活力の高い根が必要条件と考えられる。

 こうした背景のもと,緩効性被覆肥料が開発された。溶出速度や溶出パターンをコントロールできるコーティング肥料の出現は,施肥設計プログラミングを「机上で行えれば」として研究を継続してきた自分にとって,心ときめかせるものであった。とくに,シグモイドの肥効を示すLP100sの出現は,強烈なイメージを与えた。

 また,従来は,土壌の素質(ここでは,主に窒素肥沃度をさす)によって,収量は,あると一定の範囲内に収まらざるを得なかった。しかし,被覆肥料の出現は,地力の低い土壌(例えば,養分の保持能力が低く,生育後期の窒素供給力が低く秋落ちする土壌)でも,地力の高い条件に変身できる期待を抱かせるものであった。

 つまり,土壌のもつ地力と施肥が一体化して,目標とする土壌の窒素肥沃条件を作りうる可能性をもたらした点で,画期的な肥料と考えられる。

2.全量基肥一発施肥技術における理想的窒素吸収パターンの策定

 水稲の窒素吸収パターンは,稲の栄養条件と乾物生産が加味されたものであり,しかも,環境条件が変動する中で,稲が順応してきた過程を集約した結果であり,生育診断指標として,極めて信頼性の高い数値情報と考えられる。

 現在,窒素吸収パターンに関する正確なデータは,試験研究機関に問い合わせる必要がある。しかし,農家の人々や稲を長年栽培したことのある人は,蓄積された技術と稲を見つめる感性でもって,吸収パターンをイメージとして捉えることができる。

 そこで,全量基肥一発施肥での理想的窒素吸収パターンは,地域別にどうあるべきかについて考えた。その場合,まず,県内地域に散在する農業試験場本支分場(本場,置賜,最北,庄内)を地域の代表地点と考え,過年度のデータ(作況収量,地域品質)を参考にした。

 その中で,収量と品質を考慮し,理想的窒素吸収パターンと平年的かそれをやや下回る吸収パターンを策定した。例として,村山地域(ササニシキ)の窒素吸収パターンを図-1に示した。

 次に,基肥全量一発施肥技術における理想的窒素吸収パターンの仮説として,生育ステージを3段階(1期:移植~6/30,2期:6/30~穂揃期,3期:穂揃期~成熟期)に分けて考えることにし,目標収量(10a当たり玄米収量600kg,700kgの2水準),並びに,地力差(2段階)に応じて窒素吸収パターンを類型化した(図-2)。

 目標収量が600kg水準の場合,地力の高い地帯は,ある程度初期生育を重視し,後期は地力に依存した吸収パターン(Ⅰ)とし,地力の低い地帯は,初期生育をセーブし,後期を重視した吸収パターン(Ⅱ)を策定した。

 さらに,目標収量が700kg水準の場合は,地力の高い地帯に適応し,1期は,平年的かそれをやや下回る吸収パターンにセーブし,2期の穂揃期にかけて理想的窒素吸収パターンに到達し,3期は理想的窒素吸収パターンと同様の吸収経過をたどる吸収パターン(Ⅲ)を策定した。

 当然,この最適窒素要求量を,土壌窒素の発現予測と施肥窒素(緩効性被覆肥料)の溶出パターンを組合せ,利用率を考慮すれば,全量基肥一発施肥技術体系が成立するはずである。

3.土壌の窒素的地力と無窒素区の収量並びに窒素吸収量との関係

 著者らは,実証試験を継続してきた中で,全量基肥一発施肥技術は,他の人が考える程難しい技術ではなく,意外に簡単ではないかと考えるようになった。その背景には,それぞれ土壌の持つ窒素的地力を把握する場合,長年,無窒素で栽培した収量と窒素吸収パターンを,ほぼ普遍的な数値情報として捉えることが可能であり,土壌の持つ基礎的能力の上にたって施肥体系を模索したことによる。

 つまり,土壌の持つ能力はほぼ決っている。そこで,各地域で,経営的に成り立つ収量水準を念頭におく。山形県では,ほぼ600kg程度である。この場合の窒素吸収パターンは把握済みである。

 例として,農試内にある地力の高い滝山土壌と地力の低い農試土壌において,目標収量600kgの窒素吸収パターンを示しながら,無窒素区の窒素吸収実績を考慮し,その差を施肥窒素で補充する考え方を図-3に示した。すなわち,図-3の斜線の部分を施肥窒素からの吸収量でまかなうことができれば,地力の高い土壌でも,地力の低い土壌でも,600kgの収量が確保されることになる。

 当然、,地力の高い滝山土壌では,総体の施肥窒素量も少なく,施肥の溶出タイプもLP100を主体としたブレンド品が適当である。一方,地力の低い農試土壌では,初期生育(ほぼ6/30までの窒素吸収量)を確保するための速効性の化成肥料とともに,生育後期の窒素吸収量のかなりの部分を肥料に依存する必要がある。

 この場合は,速効性の化成肥料とシグモイドの肥効を示すLP100sをブレンドすることにより,十分期待に答えうる施肥体系となり,実証試験を通して確認した。

4. Conclusion

 全量基肥一発施肥技術を考える場合,まず重要なことは,地域別に経営的に成り立つ目標収量水準を明確にすることである。気象条件と土壌条件が変動する中で,設定した収量目標をクリアすれば,本施肥法は成立すると考えている。

 これまで,目標収量水準を達成するための窒素吸収パターンを策定し,それをシュミレートするために,土壌の地力実態に応じて,速効性の化成肥料とLP100やLP100sをブレンドすることにより達成されることを明らかにしてきた。

 従来の高度化成では,全量基肥一発施肥技術は成立しない。溶出速度や溶出パターンをコントロールできる緩効性被覆肥料の開発がそれを可能にした。また,化学肥料に対して,一部で誤ったイメージが先行している現状において,緩効性被覆肥料は,地力と同様に,作物の生育に合わせて溶出してくる特長を持っており,地球の環境問題が大きくクローズアップされている時でもあり,十分時代の要請に答えうる機能を有しているものと考えている。

 次報では,土壌窒素予測技術,緩効性肥料の溶出パターン特性,並びに,利用率等を設定し,窒素吸収シュミレーションの精度を高めながら,全量基肥一発施肥技術体系を構築した経緯について述べる。